葛西氏は、国鉄民営化を成し遂げた立役者。民営化後も企業改革の先頭に立って数々の実績を残し、社長就任後には、東海道新幹線品川駅開業、名古屋駅のJRセントラルタワーオープンという目を見張る大事業を展開してきている。また、一方で、全寮中高一貫制の「海陽中等教育学校」の2006年開校を目指し、新しい教育にも取り組んでいる。このような輝かしい実績を残した氏に、注目の民営化が何をもたらし、社会をどう変えていくのかを自らの体験を基に話してもらった。
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| ■ 成熟産業だからこそ再建可能だ |
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今、道路公団、郵政公社などの特殊法人の民営化が注目されています。民営化議論の中で、民営化の効果として次のような点が上げられています。
わたしが、潟Pンウッドの再建を引き受けたとき、顧問をしていた東芝の人やシニアアドバイザーをしていたリップルウッドの人から、安定的な立場を捨てて、そんなリスクを負うことはないだろうとアドバイスされました。
たしかに、ケンウッドはAVに代表される成熟産業の会社で、借金が1100億円、累積赤字が450億円(単体)、債務超過170億円という状況で、誰が見ても大変な会社です。しかし、わたしには成熟産業の会社だからこそ可能性があるという逆転の発想をもっており企業再建のセオリーである5つの構造改革を実践すれば回復は可能と思っておりました。
一体、成熟産業にはどんな魅力があるのでしょうか。日本のGDP500兆円の殆どは成熟産業が生み出しており、先のアメリカの急成長には成長産業よりも成熟産業の回復による経済効果のほうが大きく影響したといわれています。つまり、成熟産業は大きな成長は望めないが、既に一定規模の市場があり、やり方によって大きな利益を生み出すことができるのです。
安定した市場があり、新規参入者もなく、退出者が出てプレイヤーが減っている市場で、長年培ってきたリソースで精度の高い経営を行えば、勝ち組になって大きな利益を残すことができるのは、当然の理です。
| ■ 5つの構造改革で見事なV字回復 |
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ですから、まずは生鮮食料品並みのスピードで自社を投資のできる企業体質に持っていくことが第一になります。そのために実践したのが5つの構造改革です。
第一は、事業構造改革です。企業再建のセオリーのひとつである「コア事業は本業で」に従い、9年間大赤字が続いていたが本業であるホームエレクトロニクス事業の構造改革を行うとともに、成長性が期待されていたがリスクの大きな携帯電話事業を収束し、その他の不採算事業からも撤退しました。
第二がコスト構造改革です。体質に組み込まれたムダやコストを丹念に取り除かなければなりません。これはトップにしかできません。それぞれに既得権益が絡み、現場の人間では実践できないのです。具体的には、生産工場3拠点を売却・閉鎖するのをはじめ、販売拠点、関係会社などの改革・整理統合を行い、これによりコストの30%削減に成功しました。同時に、痛恨の極みではありますが、8820名いたグローバル全体のグループ従業員の約半分を削減しました。
第三が経営構造改革です。赤字会社はグループ内でコストの付け替えをしたり、不適切な人事が行なわれがちです。そこで、執行役員制度を導入して本体のコーポレートガバナンスを一新すると同時に、新しい連結経営の考え方を導入し、グループの生販が一体となって改革に取り組む体制を築きました。
第四が財務構造改革です。デフレの時代は、元本を返さなければならない借金(Debt)から元本を返さなくてよい資本(Equity)に財務構造を転換しなければなりません。ケンウッドにおいても、欧米の最新のファイナンステクニックを活用して、債務250億円を株式化すると同時に第三者割当増資を20億円実施して、02年末には170億円の債務超過を解消しました。また、さまざまな手を打って、1100億円あった借金は400億円余に縮小します。
そして最後の第五が業界構造改革です。成熟産業の市場に合ったプレイヤーの調整です。これは取り掛かったばかりですが、東洋通信機から無線事業を譲り受け、わが社の高収益事業の強化を図っています。
| ■ ワールド・エクセレントカンパニーを目指す |
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以上のような5つの構造改革を実施して、V字回復を達成しました。02年3月期には267億円の連結最終赤字であったものが、翌年03年3月期には、42億円の連結最終黒字となり、当社57年の歴史の中で過去最高を達成しました。2年後の04年3月期には、73億円の連結黒字となり、2年連続して過去最高を更新しました。
そして、次は再建から飛躍へ、事業創造のステージに入ることになります。
03年5月に中期経営計画「エクセレント ケンウッド・プラン」を立案、構造改革から事業力強化、新たな飛躍に向けた成長戦略の推進を基本方針として掲げました。
「新鮮な驚きや感動で人々に幸せな気持ちを創ろう」という企業ビジョンのもとで、中期計画の達成目標(06年3月期)を、営業利益率10%、ROE20%、復配、実施無借金経営(ネットデットゼロ)と定めています。この目標を達成すれば、世界水準でエクセレントカンパニーの仲間に入ることになります。
そのためにまず取り組んでいるのが「KENWOOD Quarter QCD Revolution」と銘打った生産革新による競争力と収益力の強化です。具体的には、不良率1/4化(Quality)、間接コスト1/4化(Cost)、生販リードタイム1/4化(Delivery)を達成し、損益改革(コスト30%削減)、キャッシュフロー改革(棚卸資産50%削減)を実現することです。
そのひとつの現れが、アジアに勝てる国内工場の復活です。実際に、最も競争の激しいホームオーディオ(ポータブルMDプレーヤー)を山形工場でマレーシアより安くつくり、注目を集めました。
次が「新財務戦略」です。まずは、財務的な自立を目指すために、200億円の無償減資を行って繰り越し損失を一掃しました。一方、230億円の公募増資を行い、優先株の半数を消却、これで完全に財務的な自立を果たしました。
その上で、いよいよ事業への再投資をスタートしています。競争力のある新商品、新技術開発に向けた開発投資、グローバルプレゼンスに向けたブランド戦略への投資、そして、新卒採用を再開し、給与カットも終了して従業員への再投資を行っています。これらの投資が効果を発揮し、中期計画の高い目標は、ぜひ達成したいと思っています。
このように急速な企業革新は、過去に米国の現地で学んだ合理的な経営マインド・手法と工学的思考法が背景にあったと思いますが、何よりも、日本人の心をもってこれらを実施し、過去の経験よりも、意欲を重視した人を登用した点にあったと思います。
このレポートは7月26日に行なわれたセミナーを要約した。文責・ダイヤモンド経営者倶楽部事務局 |