葛西氏は、国鉄民営化を成し遂げた立役者。民営化後も企業改革の先頭に立って数々の実績を
残し、社長就任後には、東海道新幹線品川駅開業、名古屋駅のJRセントラルタワーオープンとい
う目を見張る大事業を展開してきている。また、一方で、全寮中高一貫制の「海陽中等教育学校」
の2006年開校を目指し、新しい教育にも取り組んでいる。このような輝かしい実績を残した氏に、
注目の民営化が何をもたらし、社会をどう変えていくのかを自らの体験を基に話してもらった。
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| ■ 実態を反映していない民営化効果の議論 |
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今、道路公団、郵政公社などの特殊法人の民営化が注目されています。民営化議論の中で、民営化の効果として次のような点が上げられています。
| @市場規律による活性化 | | A規制緩和による活性化(関連事業の拡大) | | B政治介入の遮断 |
しかし、国鉄の民営化に携わった人間としていいますと、@、Aの効果はないといえます。
まず、@についてですが、事業内容によって、マーケットに任すことのできるものと、そうでないものがあります。わたしたちの鉄道事業は公益事業であり、競争に負けたからといってマーケットから退場するわけにはいきません。地方の赤字路線を採算を理由に廃線にすることはできません。われわれの事業においては、市場の競争原理による活性化の効果はないのです。
Aについては、若干の効果はありますが、それはわずかなものです。確かに高度成長時代、私鉄は沿線開発、流通、ホテル、レジャーなどの関連事業を開発し、事業を発展させてきました。しかし、低成長時代を迎えた現在、ほとんどの関連事業が赤字体質になり、本業を圧迫しているのが実情です。われわれJRについても同様のことが言えます。
| ■ 自律性、即応性、先見性を手に入れる |
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民営化の最大の効果は、Bの政治介入の遮断です。国鉄時代は、運賃値上げひとつとっても法律を変えるために国会の承認を得なければなりません。企業にとって最も重要な価格政策が機動的に発動できないのです。事業予算も衆参両院の承認が必要です。しかも単年度予算です。
話し合い、協議でことを進める政治の世界と、軍隊式に即断即決で行動に移す企業経営との間のネジレが国鉄の不幸の元凶でした。
組合にしても、決定権を持たない経営者と交渉しても始まりません。政党などを通して政治的に自分たちの要求を実現しようとします。そんなところにまともな労使関係が育つわけがありません。
民営化によってそのくびきが取れたのです。
運賃にしても、投資にしても、労働条件にしても、すべて自分で意思決定できるようになりました。しかも、即時に。さらに、将来を見据えて、投資をはじめさまざまな戦略を打ち出すことができるようになりました。
企業経営として必須の条件である、自律性、即応性、先見性を手に入れたのです。
そのことによって具体的にどのような効果が出たのでしょうか。
まずは、技術力の向上です。国鉄時代、新技術の導入は労働強化につながるとして、労働組合は反対をしてきました。時には政党を動かし阻止しようとしました。技術の人間は技術開発の意欲を失っていました。そのしがらみがなくなり、JRは世界一の技術集団になったといってもよいでしょう。
次は労使関係の正常化です。自分たちの頑張りが会社の発展、労働条件の向上につながるという認識に立った普通の企業の労使関係を築くことができました。そのことで、社員の忠誠心、規律が高まったのです。
そして戦略的な設備投資ができるようになったのです。JR東海の設備投資は、年平均940億円と国鉄時代より500億円強増加しています。民営化後の16年間で新幹線に約8000億円の投資をしています。約5000億円を車両に、約2000億円を地上設備に、そして約1000億円を品川駅に投資して、新幹線の時速270キロ化の目標を達成したのです。
| ■ 限界を超え未来に向けて走る |
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その民営化効果を数字で具体的に示しましょう。
まず、新幹線の遅延の平均時間です。東海道新幹線を往復している全車両の遅れを合計した一日あたりの遅延時間です。国鉄時代は平均3.1分でした。それが03年は、約0.1分になっています。10秒以下です。これは大雨や降雪などの管理不能な自然現象に左右されるためのもので、これ以上低下は不可能な水準まできています。
次は、事故件数です。運行距離100キロ当りの事故件数で見ますと、1.94件だったのが、0.41件に減っています。
労働生産性も大幅に向上しています。従業員数は国鉄時代に比べ、大幅に減っています。しかし、従業員一人当たりの生産性は向上しています。鉄道事業の生産量は旅客輸送人キロで示します。それを一人当たりでみると、国鉄時代は、約100万人キロでした。それが2年後には、360万人キロを見込んでいます。なんと生産性の向上は3.6倍になります。
これらはすべて、民営化による社員の忠誠心、規律などの向上がもたらしたものです。
人件費率も大幅にダウンしました。国鉄時代は、収入の85%が人件費でした。それでは企業として成り立つわけがありません。それがJR東海でみると15%にダウンしています。利子率も下がっています。一方、国鉄時代は収入の21%が利子払いでしたが、JR東海発足時は46%となりました。これは新幹線保有機構によって本州JR3社間の収益調整が行われたためですが、現在では18%に減少しています。現在、売上約1兆円で、借入れが4兆円という状態まできました。
民営化後、このようにして企業体質を強化し、その後取り組んだのが、新幹線品川駅の開業です。品川駅開業により品川駅周辺の方は、東京駅利用よりも20分時間短縮ができます。将来、これまでの東京駅利用客の3分の1が品川駅利用者になると見込んでいます。品川駅周辺の土地は、東京都全体で見ると地価はまだまだ値下がりしている中で、値上りしています。品川駅開業の社会経済的効果といえるかもしれません。
そして、未来に向けて取り組んでいるのが、超伝導リニアモーターカーです。鉄路の上を走る鉄道技術としては、時速300キロが技術的限界です。その限界を突破するのがリニアモーターカーです。最高速度時速500キロ、1時間で東京・大阪間を結びます。
リニアモーターカーが走る中央新幹線が開業すれば、1日100本、10万人の旅客を運ぶことができます。
民営化後16年でここまでの実績を積み上げることができたのは、政治とのしがらみから開放され、自律的意思決定の下、国益を踏まえた企業経営を行ってきたからだと自負しています。
このレポートは6月17日に行なわれたセミナーを要約した。文責・ダイヤモンド経営者倶楽部事務局 |